見える化とは
昨今『見える化』と言う言葉が流行っています。グーグルで『見える化』と言う キーワードで検索すると約1,000万件ぐらい検索されます。 その主だった検索内容を見ると、それぞれの立場から『見える化』の内容が論じられており、 内容は千差万別です。そこで、本ページでは中小製造業に的を絞り、 中小製造業における見える化の必要性と実践時のポイントについて検討いたします。
・中小製造業における見える化の必要性
・中小製造業における見える化実践時のポイント
中小製造業における見える化の必要性
下段に示す表に、中小企業庁による中小製造業の定義と中小製造業の企業数・従業員数・出荷金額を整 理しておきました。中小製造業の企業数・従業員数・出荷金額は大企業のそれを上回っており、 中小製造業は日本の経済活動において重要な役割を担っているこ とが分かります。
このような理由から、国は中小企業の育成を図るために中小企業庁を設置して、中小企 業診断士制度を設けたり各種金融面・経営面での支援を行っておりますが、 実際の現場(生産・開発・技術・営業など・・・)に踏み込んで指導することは少なく、 中小製造業の活性化には必ずしも繋がっていないかも知れません。
深刻な経済不況が続いていますが、日本の経済活動を支えている中小製造業に活気を 取り戻していただくためには何を考えたらよいのでしょうか。 大企業に比べて『ヒト』・『モノ』・『カネ』という経営資産が不足がちですが、 中小製造業ならではのメリットがあるはずです。 それはフットワークの良さではないかと思います。 自社の強み・弱みを正確に分析し、多様化する市場ニーズにスピーディに対応していくことができるのは、 中小製造業ならではの特技ではないでしょうか。
時代の変革期にあたり、これまでの仕事の在り方や企業経営の在り方が 通用しなくなりつつあります。そして、この未曾有の危機を乗り越えるためには、 中小製造業ならではのフットワークを活用して、マネジメントレベルを上げ、 社員の意識革新を実行して、企業体質を強化する必要があります。 そのためには、製品開発から生産~販売に至る企業活動における諸問題を『見える化』し て、 現状を把握した上で改善のための最適な 仕組みつくりを行うことが重要となります。 そして、経営上の問題点を『見える化』す ることにより、 経営者の方々にはスピーディーな意思決定が行える土壌を培い、 現場担当者の方々には、「上司に指示をされて動く」のではなく、 自律的に判断・行動する能力を養って頂き、会社の活性化を促進することが可能となります。
業種分類 | 中小企業法による定義 |
---|---|
製造業その他 | 資本金の額または出資の総額が3億円以下の会社ならびに 常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額または出資の総額が1億円以下の会社ならびに 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額または出資の総額が5千万円以下の会社ならびに 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額または出資の総額が5千万円以下の会社ならびに 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
製造業の規模 | 製造業数 | 従業員数 | 出荷金額 | |||
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内訳 | 企業数 | 構成比率 | 従業員数(人) | 構成比率 | 金額(兆円) | 構成比率 |
中小企業製造業 | 554,431 | 99.6% | 8,253,790 | 74.2% | 137.8 | 51.2% |
大企業製造業 | 2,150 | 0.4% | 2,872,355 | 25.8% | 131.6 | 48.8% |
合計 | 556,581 | 100% | 11,126,145 | 100% | 269.4 | 100% |
中小製造業における見える化実践時の ポイント
『見える化』とはどの様なものだろうかと思われる方も居られるかと思われますので、 ここでは分かり易いように、製造工程における歩留まり改善対策を例に挙げて、『見 える化』の 実践ポイントについて検討してみましょう。
図は歩留まり改善対策における『見える化』手
順の内容を示しています。
図の左側には、歩留まりが何らかの原因で悪化したときの製造工程内における
歩留まり改善活動の手順を示しております。どの企業においても、
この手順に沿って改善活動を実施するものと考えられます。
また図の中央部及び右側には、『見える化』の行動ステップと
歩留まり改善活動を実施する際に、
どの様な項目を『見える化』しなければならないかを各々示し
ておきました。
見える化の行動ステップと歩留まり改善活動への適用例
工程内の歩留まり改善活動において、目的も持たずに思いつきでなんとなく効果がありそうだと言うことで 改善策を実施すると,、製造現場に負担をかけるだけで逆に不良率がさらに悪化する場合も多いと言えます。 見える化の行動ステップに沿って、歩留まり改善活動を例に挙げながら 『見える化』の実践ポイントを説明致します。
- ・事象とは:
これは『見える化』の背景・狙い・目的に相当し、 何のために見えるようにするか、その狙い・目的を示してい ます。中小製造業における『見える化』の目的は経営改善を行い利益を確保することです。 この狙い・目的を明確にしておきませんと的外れとなり、努力の割には成果が得られません。 図1.に示した歩留まり改善活動の事例では、職場内で歩留まりの悪化がロスを 増大させ収益を悪化させていると言う認識が無いと、歩留まり改善活動を行うことを思い付きませんし、 不良品の垂れ流しが続くことになります。このような悪しき習慣を打破し、 従業員の意識を改革するのは経営者の方々の責任です。 経営者の方々が何を『見える化』させたいのか、 その背景・狙い・目的を明確にして、その目標を達成するた めに社内の雰囲気を醸成する必要があります。 - ・見えるとは:
これは『見える化』 において問題の顕在化に相当し、 現状の問題点を基準・標準やあるべき姿と比較したりして、 客 観的な評価基準を基にして 問題点を見えるようにすることです。 歩留まり改善活動で言えば、品質の基準・標準が無いと、その製品が良品なのか不良品なのかの区別が付きません。 また不良品の内訳が区分されており、その不良率の推移が誰にでも分かり易いように掲示ないしは報告されて いないと、誰も歩留まりの悪化に気が付きません。従って『見える化』と は別な言葉でいうと 『見せる化』にもつながります。 課題解決のためには、その手始めに起きている事象を見えるように顕在化し 、,当事者に問題に気がついて貰うことが重要です。 - ・認識するとは:
これは『見える化』において問題点の把握に該当します。心理 学上で「認識する」とは、知覚を介して外界から得た情報が 意味づけされて、意識に上ることを言います。 多くの方々が同じ事象を見ても、恐らく同じ様には捕らえてはいない (同じ認識をしていない)かと思います。 それは、その人のこれまでの経験や知識の有無によって、認識レベルが異なるからです。 そして、認識するレベルは「見る」ことと「見える」ことの差によっても生じます。 また、個人が認識しているかどうかは他の人には直接判断できません。 その人が認識したかどうかは言動や行動で判断するしかありません。 企業は集団で組織的な活動を行う場ですので、『見える化』に おいて 問題点を多くの従業員の方々に把握して貰うためには、打ち合わせなどを開催して組織を構成する 個々人の認識レベルあわせを行い、次のアクションに繋げることが重要となります。 歩留まり改善活動で言えば、不良の発生によるロスが経営損失を招いていることを組織メンバーに認識して貰い、 組織的な改善活動に着手し、不良発生状況・発生原因を調査することにより、問題点を把握することと言えます。 - ・判断するとは: ここで言う判断とは状況判断です。認識することによって得 られた様々な情報・分析結果を元にして状況を判断して、 そして課題解決のための最適な方向性を見出すことです。判断を下すためには客観的な評価基準に基づいた 判断材料を揃えておくことが必要となります。 判断すると言うことは、実行するための意思決定を伴います。 この過程で様々な解決すべき課題が出てくるかと思われますが、経営者の方々が経営上の 重要度・緊急度・優先度 を考慮して、どの課題から解決するかを決めてゆきます。 歩留まり改善活動で言えば、工場の責任者乃至は経営者が、課題解決のために担当者または担当組織を決めて、どの 不良項目から改善していくかを決めることに相当します。
- ・行動とは:
これは『見える化』において実行することを意味しています。 何をどの様に実行するかが問題となります。 そのときの思いつきや無計画に行動を起こしても、社内に混乱を招くだけで得るものはありません。 ここで『見える化』の行動ステップを振り返って見ましょう。見える化のステップは、{背 景・狙い・目的を明確にする」 ⇒ 「問題点を顕在化させ る」 ⇒ 「問題点を把握する」⇒ 「状況判断・意思決定をする」 だったかと思います。 従って『見える化』における 行動は、このステップの締めくくりとして、 問題点や課題の解決のために施策を組織的かつ計画的に実行するこ とと言えます。では、単に計画を実行するだけで良いのでしょうか。 『見える化』の行動の中には、行動の内容を 『見える化』することも含まれていますので、 事前に計画の内容を社員に説明して了解を得ておくことも重要なプロセスとなります。 また実行した内容がどの様な効果を生んでいるのかを、 定量的かつ客観的 な指標で『見える化』して評価するこ とも大切です。計画通りに物事が進むことは滅多にありません。 結果を評価して、 計画の甘さを『見える化』して次の経営改善に繋げる事が重要です。 歩留まり改善活動の例をあげると、歩留まり改善策を実施して、 その結果を評価して次の歩留まり改善策に繋げることと言えます。
『見える化』の基本的な概念はご理解して 頂けたと思います。 では、『見える化』をどのように経営と結びつけたら良いので しょうか。 次のページでその内容について説明いたします。