利益を生むメカニズム
中小製造業における『経営の見える化』
とは、社内(生産・開発・設計・販売・本社部門)の業務プロセスにおける
課題・問題点(ロス・無駄)を従業員の方々及び経営者の方々に見えるような仕組みつくりを行い、
それらの課題・問題点を組織的に解決し、業務効率を上げることにより
コストを削減・経営体質を強化するための手法と言えます。そして、関連ページにおいて、
『経営の見える化』は『製造現場の見える化』から着手した方が良い
と述べました。
このページでは、その理由を
損益計算書のスタイルを用いて説明致します。また、このページに関連する項目について以下に示しておきました。
中小製造業において利益を生み出す方法として、以下の3つの方法が考えられます。
- ・販売数量を増やし売上高をUPさせる
- ・製品価格をUPさせる
- ・総原価を下げる
しかし、販売数量を増やすこと及び製品価格のUPは、大企業と異なり中小製造業では
広告を派手に打つなどの余裕がありませんので、昨今の経済環境下ではほとんど至難の業と言えるかもしれません。
従って、中小製造業において利益を出すためには、総原価を如何に下げるかと言うことが重要な課題となります。
損益計算書のスタイルを用いると営業利益を生み出すためのメカニズムを単純に示すことができます。
すなわち下段に示す損益計算書の書式において、
- ・「売上高」 > 「総原価」 であれば利益が黒字に なります。
- ・「売上高」 < 「総原価」 であれば利益が赤字と なりま す。
当たり前だと言われるかもしれませんが、この「売上高」と「総原価」の大小関係を考慮して 「総原価」を下げて利益を稼ぎ出すのが中小製造業の経営の基本です。 バブル期に株や投資に資金を振り向け営業外収益で利益を得ていた企業が数多くありましたが、 それらの企業はバブルが弾けるとともに一気に赤字転落・倒産の憂き目に会っています。 決して株や投資などで営業外収益を稼ぎ出すことが中小製造業の経営のやり方ではありません。
製造業の基本はものつくりで
す。
そして、ものつくりの
過程で付加価値をつけて行きます。
そして、この付加価値が高いほど利益が多くなります。
しかし、ものつくりの過程では様々なロス・無駄が発生
します。
そして、これらのロス・無駄は経費増(コスト増)の形で、
表1.に示す総原価の中でとりわけ製造原価を高め
る方向に作用し、利益を減少させます。
したがって、利益を生み出し大きく育てるためには、ものつくりの
過程で発生するロス・無駄を如何に少なくするか(如何にコストダウンを行うか)
と言うことが重要な課題となります。
具体的には、表の左側に示した製造原価の 構成 要素(材料費・外注加工費・社内加工費・・・・etc)を 個別に検討し、コストダウンを実施して利益を稼ぎ出していくことになります。
コストダウンを行う際に、どのような事柄に注意を払ったら良いのでしょうか。 次に、その手順について考えて見ましょう。ものつくりの 過程では様々な部門が関与しています。 そして、製造原価の中にはこれら関係 部門のコストが含まれます。 表に製造原価の構成要素と関係する部門コストの影響度合いを 示しておきました。中小製造業では、部門が組織的に独立していることは少なく、 担当者レベルで業務を行っていることが多いかと思います。 その場合には、部門ではなくその担当者の氏名に置き替えて頂ければ、 表の内容を理解し易いかと思います。もし、各部門の経費がどのくらいか数値化されていれば、 その数字を表の中に入力することにより、各部門の経費がどの様に原価に 影響しているかが分かります。
この表において、各記号は以下の内容を示しています。
- ◎:費用項目に特に関係する部門
- 〇:費用項目に次に関係する部門
- ー:費用項目にはほとんど関係しない部門
製造業における主な部門 | 製造部門 | 技術間接部門 | 営業部門 | 本社部門 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
課及び担当者 | 製造直管 | 資材購買 | 外注管理 | 設備管理 | 生産管理 | 生産技術 | 品質管理 | 開発技術 | 営業 | 経理人事 | ||||
売上高 | 総原価 | 製造原価 | 材料費 | ◎ | ◎ | 〇 | ー | 〇 | 〇 | ◎ | ◎ | ー | ー | |
外注加工費 | 〇 | 〇 | ◎ | ー | 〇 | ー | 〇 | ー | ー | ー | ||||
社内加工原価 | 直接 経費 | ◎ | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | |||
製造 経費 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ||||
間接経費 | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ー | ー | ||||
販売経費・ 一般管理費 |
ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ◎ | ◎ | ||||
利益 | 各部門の費用(コスト)削減努力・協力によって、利益は増大する |
材料費を例に挙げて、 この表の見方を簡単に説明いたします。 材料費で は、”◎”印で示したように、製造部門、 開発・設計部門、 資材購買部門、品質管理部門が強く関わっています。 次にこれら部門がどの様に材料費に関与してい るかを検討してみましょう。
各部門の材料費への関与度合いは、概略以下のようになるかと思います。
- (1)製造部門:
製造部門にとっては、材料費は製造原価の構成要素そのものとなります。 資材購買部門が購入した部品・材料を使用しますので材料原価を変更するこはできません。 しかし、工程内の歩留まり・収率が悪いと製品一個当りの材料原価が跳ね上がってきます。 また、工程内の歩留まり・収率の悪化は生産性を落とし、製品一個当 りの直接人件費・製造経費の増加を招き「製造原価」を押し上げます。従って、 製造工程で使用する材料の歩留まり・収率を改善することにより、材料費のみな らず間接的に「製造原価」を下げることが可能となります。 製造部門の役割は、常に工程内の歩留まり・収率を意識しながら、 如何に効率の良い生産を行うかということになります。歩留まり・ 収率を改善するためには、製造部門の力だけではできませんので、 開発・設計・生産技術部門、品質保証部門に協力を仰ぐ必要があります。 - (2)資材購買部門:
設計仕様に基づいて材料を調達します。調達先、調達量、 納期によって購入原価が決まりますので、如何に安く購入するかが腕の見せ所になります。 また、新製品の材料選定段階から開発・設計部門との綿密な調整を行い、 材料の初期購入原価を如何に下げるかということが課題となります。 - (3)品質管理部門: 客先品質の保証、工程内歩留まりにより材料費が左右されます。 客先品質を保証すると言っても過剰品質の場合が多くあります。 過剰品質の場合、工程内歩留まり・収率が悪化し材料コストが高くなります。 新製品の発売時に、製品の要求性能・機能を考慮して、客先と出荷品質を決める必要があります。 また工程内歩留まり・収率を監視する責任部門となりますので、 工程内歩留まりが設定以上に悪化した場合には、 製造部門、開発・設計部門と協力してその原因を明らかにし、 改善策を指導する責任部門となります。
- (4)開発・設計部門: 設計仕様により材料選定を行いますので、部品・材料の初期購入原価を決める部門となります。 開発・設計者は意外とこだわりを持っており、機能性を重視するあまり、高額な部品・ 材料を使用する傾向があります。量産が始まり製品が客先に納品される様になると、 材料変更は容易ではありません。従って、客先から材料指 定をされた場合以外は、使用する部材が汎用品の場合には、開発設計段階で量産を意識して 同一機能を有する部材の候補をいくつか用意して、如何に部品・材料費を下げるかを考える必要があります。 購入先の選定については、価格も含めて資材購買部門と綿密な打ち合わせを行わなければなりません。
この様に材料費一つ取り上げて も、様々な部門が何らかの形で関与しています。経営者の皆様方が担当部門に要求するのは、 あくまでもトータルコストダウンでなければいけません。 ここでは材料費を例に挙げましたが、材料費のトータルコストダウンを行うためには、 資材購買部門(担当者)の尻を叩き、購入単価を下げるだけで片手落ちとなります。 関係する部門(担当者)が「材料費」に着目し、如何にコストを下げるかを真剣に 考える様な仕組みをつくり、部門の枠を超えて全社的かつ組織的なコストダウン活動を 行い、利益を生む出せるようにすることが重要となります。 『経営の見える化』とはこのような仕組みつくりを行うこ とです。
利益を生み出すメカニズムについて述べましたので、 次に利益を生み出すための施策について考えて見ましょう。下記の項目の”利益創出策と実現性”の ページを開いて見て下さい。利益を生む出すための施策に対して、何を考慮したら良いのかを示しておきました